東京高等裁判所 平成5年(う)816号 判決
所論は,原判決は,被告人は,Aの運転する自動車でBらとスナック「α」に行った時点で,他の共犯者と共に,C(被害者)を「半殺しにするような激しい暴行を加えることについて共謀を遂げ」,そして,「少なくともジャンボパチンコ店駐車場においてAがΣ沼云々と言い出し,Dがこれに賛意を表するのを聞いた時点において,被告人もこの上はCを殺害するのほかはないとの決意を固め,Aを初めとする他の共犯者との間に黙示的にその旨の共謀を遂げ」「同所においても,被告人らはCの頭部などを多数回にわたりこもごも激しく殴打,足蹴りした」旨認定しているが,被告人には,もともとCに暴行を加えたり,殺害するような理由も動機もなく,また,「α」に着いてから後も,被告人にそのような犯意を生じさせるような出来事は起きていない。被告人は,CをC方玄関から外へ引きずり出す行為をしているが,被告人がたまたまCの襟をつかんだ際寿司桶に足を取られて尻もちをつきそうになった拍子にCを強く引っ張ってしまったのであって,事前共謀に基づく暴行ではなく,ジャンボパチンコ店駐車場においても傍観者的態度に終始しており,Cの肩の辺りをサンダル履きの足で軽く押したことはあるが,これは暴行と評価されるべきものではなく,μ川においてもCに一切暴行を加えていない,以上のとおり,被告人には,Cに対する暴行についての事前共謀もなく,殺人の共謀も,殺人の実行行為もしていないから,原判決には重大な事実誤認がある,というのである。
被告人の,本件との具体的かかわりに関し検討すると,まず,被告人は,深夜自宅において,W組長からの電話で,CがX組長の兄の店で暴れた旨の簡単な連絡を受けた上,その後「π」に呼び出されて,W組長から,お前もAと一緒に行ってやれという趣旨の指示を受け,Aの乗って来ていたレジェンド車にBとともに乗り,「α」に向かい,同店前の路上などで行われたAとDを中心とする話し合いにより,W組に属する被告人,A及びBの2名とDらX組に属する6名が一緒にC方へ押しかけることになるや,これに従い,A,Dら8名の者とともに3台の自動車に分乗してC方に出かけたことが明らかである。
この点,関係各証拠によれば,被告人が,Cに対し,個人的な恨みなどの強い感情を抱いていたものでないことは認められる。そして,右認定の被告人がC方に向かうことになった状況に加え,CとW組及びX組とのかかわり合いの状況,本件が発生した直接的事情,被告人の暴力団組員としての経歴を合わせて考えれば,被告人は,それがW組又はX組に属する者として行うCへの報復,制裁のための行動であることを認識した上で,C方へ向かっていたことも明らかである。
さらに,被告人は,昭和58年以来W組の組員であり,Y連合会の評議員の地位にある幹部であって,Z一家の決まりやしきたりについては十分に知しつしていたことがうかがえる。すなわち,被告人においては,Cに対し,自分たちの属する組織の規律に従って正式な処分を受けさせるのではなく,いわば目下の者が目上の者に集団でリンチを加えるという形で報復しあるいは制裁を加えたりすることが許されないことを,他の若い組員以上に十分に分かっていたものと認められる。加えて,被告人としては,CがZ一家内でも乱暴者として知られていることに加え,「ジャンボ」駐車場において,Aらから手ひどい暴行を受けながら,なおも仕返しをほのめかすような言葉を発していることをみて,Cをこのまま帰した場合,Cから後でどのような仕返しに出られるか分からないという思いになったことも自然な心の動きであると思われる。
そして,Aは,「お前なんか死んじゃえ」などと言いながら,特殊警棒で,それが曲がるに至るまで激しくCの頭部を殴り,頭から出血させ,さらにCがついに動かなくなった後,「Σの方に沼があるので,沼に捨てちゃおう」などと言い出し,Dもこれに同調する発言をし,結局,Aは,Cの両手を鉄鎖で後ろ手に縛った上,Eらに指示して,すでに動かなくなっていたCを自動車の後部トランク内に荷物のように積み込んでいるのである。してみると,被告人も,Aらの右一連の行動をみて,これに自分も加わっているという状況にあることも認識していることに加え,右認定のようなCに対する心の動きもあって,Aらの意図,すなわちAらがCをΣ沼などに連れて行って,11月半ばの寒空の下,水中に放り込んで殺害しようとしていることを十分に察知したことも明らかということができる。
しかも,被告人は,暴力団としての組織上,C方に押しかけた者たちの中では自分が最高の地位にあり,Cを殺してはいけないと自分が判断したときは,W組長の指示に反するものでない限り,積極的に,Cに対して謝るように勧めたり,Aらに対して,W組長あるいはX組長の所へ連れて行こうと提案することができる立場にあることを十分に認識していたものとうかがえる。しかるに,被告人は,AらがCを殺害しようとしていることを十分に察知しながら,Aらの行為を差し止めるような行動に出なかったばかりか,自分もAらとその後の行動を共にしていることが認められる。したがって,右のような被告人の具体的行動に照らしても,被告人は,AらのCに対する殺意ないし殺害行動に出ることを察知するに至るや,自分もAらと行動を共にする意思を固め,Aらと意思を相通じてその旨の共謀を遂げたことが優に肯認できるのである。
以上要するに,関係各証拠を総合すれば,被告人は,「ジャンボ」駐車場において,自分を含めAらその場にいた者(Fを除く。以下同じ。)がCに対し激しい暴行を加えた終わりごろ,Aが,動かなくなったCを見て,「Σの方に沼があるので,沼に捨てちゃおう」などと言い出し,Dもこれに同調する発言をするに至った際,被告人としても,AらがCを殺害する意図であることを認識しながらこれを容認して,Cを殺害するもやむを得ないと決意し,とっさにAらその場にいた者との間で暗黙のうちに意思を相通じてCの殺害を共謀したこと,そして,被告人を含めAら8名の者は,被告人もμ川の土手においてその場で状況を見守るうち,DらがCの体を土手下にけり落とした上,EやGが実際にμ川の水中にCを押し沈めてでき水により窒息死させて,右共謀に基づき殺害の目的を遂げたことが優に肯認できるのである。すなわち,Cを殺害したことに関し,被告人がAら7名との間で殺人の共謀を遂げたこと,Cの死に直接結び付く実行行為には加わらなかったものの,そこまで発展した一連のCに対する暴行行為には自ら関与していることが明らかである。
したがって,原判決挙示の関係各証拠を総合すれば,原判示の罪となるべき事実は,被告人の関与の部分を含め,合理的疑いを越えてこれを肯認することができ,原判決には所論指摘のような事実認定の誤りはない。